美容サロンやエステティシャンにも関係する「インボイス制度」の基礎知識
今年から導入される予定のインボイス制度。「よく分からないからまあいいか」「自分には関係ないだろう」と思っていると、いざ制度が始まった時に損をする可能性もあるため注意が必要です。本記事では美容サロンやエステティシャンの方を対象にインボイス制度の概要とその影響について紹介します。
記事監修:7beauty開業コンサルタント
- 通販サイト「セブンビューティー」をはじめ「セブンビューティーアカデミー」「ショールーム」など様々なサービスを運営している、総合美容メーカーSEVEN BEAUTY株式会社で「開業/経営サポート」を担当。これまで美容室・エステ・ネイル・まつエクなど数多くの出店を支援してきました。様々な成功事例を元に事業計画作成や施工など幅広くサポートさせて頂きます。
インボイス制度とは?
インボイス制度は正式名称を適格請求書等保存方式といい、取引の正確な消費税率や消費税額、取引内容等を記した適格請求書(インボイス)の発行・保存を求めるもので、『仕入税額控除』を受けるための新しい制度です。この制度が導入されると、インボイス(適格請求書)がない場合、仕入れ時の税金が控除されることが認められなくなります。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「税率ごとに区分した消費税額等」の記載が追加されたものをいいます。
インボイス制度の導入を決めた背景には、2019年に採用された軽減税率の存在があります。これにより、10%と8%の2種類の税率が同時に使われるようになりました。しかし、複数の税率の混在が原因で経理の事務処理でミスが頻発したため、社会的に問題視されるようになりました。
また、仕入れた品の税率が8%だったのに、10%で計上すれば2%の不当な利益が発生します。このような経理上のミスや不当利益を出さないよう、請求書の記載内容を追加し、商品ごとの価格と税率を記載した書類を保存することになりました。
計算方法
仕入税額控除の要件
控除の要件として、適格請求書(インボイス)等の保存が必要になります。
– | ~令和5年9月 【区分記載請求書等保存方式】 |
令和5年10月~ 【適格請求書等保存方式】 (インボイス制度) |
---|---|---|
帳簿 | 一定の事項が記載された帳簿の保存 | 区分記載請求書等保存方式と同様 |
請求書等 | 区分記載請求書等の保存 | 適格請求書(インボイス)等の保存 |
課税事業者と免税事業者の違いについて
今回導入が予定されているインボイス制度は、課税事業者か免税事業者かによって影響が大きく異なるため、まずはその違いを理解しておく必要があります。 まず、課税事業者に該当するのは、基準期間の年間売上が1,000万円以上の事業者です。また、特定期間(個人の場合は前年の1月1日から6月30日、法人の場合は業務開始から6ヶ月)の売上が1,000万円以上で、なおかつ給与支払額が1,000万円を超える場合も該当します。
この場合、業務委託の勤務先や顧客から受け取った代金の中から、商品代を除いた消費税を国に消費税を納める必要があります。ただし、在庫の仕入れ時には購入代と消費税を同時に支払っているため、その差額分を納税します。
続いて、免税事業者の対象となるのは、年間売上が1,000万円以下の場合です。この場合は消費税の納税義務がないため、売上と同時に受け取った税額を収益にすることができます。
※図、表:インボイス記載例 「国税庁 令和3年10月1日登録申請書受付開始リーフレット」「国税庁 適格請求書等保存方式の概要 インボイス制度の理解のために」より引用
インボイス制度が美容サロン・エステティシャンに与える影響
エステサロンにはどのような影響がある?
事業者区分によって、新制度の影響が異なります。
課税事業者が商品やサービスを販売する場合、インボイスを発行できるためこれまでと特に変わりはありません。ただし、販売ではなく購入する場合は注意が必要です。仕入れ先や外注先が課税事業者だった場合、相手にインボイスを発行してもらえるため特に影響はありませんが、
免税事業者の場合は控除が無効になるため、取引先と国の二重に消費税を支払わなければなりません。もしくは、納税額を考慮し、取引先との契約金額を検討する必要があるでしょう。また、免税事業者の場合は納税義務がないため、商品やサービスの購入時は特に影響はありません。しかし、課税事業者との業務委託契約などではインボイスが発行できないため、取引先が損をしてしまいます。そのため、取引の中止や報酬の減少につながる可能性があります。
免税事業者は適格請求書を発行する権利がありません。そのため、課税事業者が免税事業者に仕事や仕入れを発注すると適格請求書等を発行してもらえないため、仕入税額控除が受けられなくなってしまいます。仕入税額控除が受けられないと、仕入時に支払った消費税は考慮されず、売り上げからも消費税が引かれ二重に課税が行われてしまうため、サロン側の収入が減少します。そういった理由から、仕入先が免税事業者の場合は、サロンの売り上げを守るため対応を考慮する必要があるのです。
また、考慮すべきなのは仕入先だけではありません。ヘアサロンの形態で多い従業員と業務委託契約を結んでいるケースも同様に対応を検討しなくてはいけません。
サロンがすべき対応方法としては、大きく2つあります。
・ひとつは、免税事業者に課税事業者へ変更を促すこと。
・もう一つは別の課税事業者となっている業者へ依頼先を変更すること。
このどちらかとなってきます。
課税事業者と免税事業者の違いについてはこちらも併せてチェック
>>課税事業者と免税事業者の違いについて
免除事業者は課税事業者になるべき?
業務委託契約を結んでいる方や、フリーランスで働かれている免税事業者は、課税事業者になって適格請求書発行事業者に登録すべきなのかと悩む方もいるでしょう。
免税事業者は、適格請求書発行事業者にならない場合、取引先から消費税額分の値引きを要求される可能性や、取引から除外される可能性があります。反面、適格請求書発行事業者となった場合、消費税額の申告と納付が必要となります。
まずは、取引先が課税事業者なのか、適格請求書の発行を希望するのかを調べてみましょう。
もし、取引先が全て一般消費者、あるいは同じ免税事業者であれば、適格請求書発行事業者にならなくても、顧客に対する影響はないでしょう。
『委託元は消費税が増えても問題ないか』
『顧客は一般消費者が多いのか、課税事業者が多いのか』
『個人の消費税額の負担が発生しても問題ないか』
等、課税事業者となるべきか否かは、会社の業績や取引先の状況を踏まえて検討しましょう。
インボイス制度に向けて美容サロン・エステティシャンが準備すべきこと
適格請求書発行事業者になるかどうかをよく検討する
現段階で消費税の免税事業者の場合、まずは適格請求書発行事業者になるかどうかを検討しなければなりません。免税事業者のままであることとした場合、取引先で消費税を控除できなくなるなどの影響が出ます。
一方、適格請求書発行事業者になると、取引先には影響ありませんが、自身の収入が減少することとなります。美容サロンに対する支払いを経費としている事業者がどれくらいいるかにより、この判断は大きく変わります。
ただし、この制度は開始日から本格的に導入されるわけではなく、経過措置が設けられています。免税事業者からの仕入れについては、2026年9月30日までは80%、2029年9月30日までは50%の控除が認められています。全ての事業者にとってメリットがあるわけではないため、これからの美容サロンの経営の展望なども踏まえて、適格請求書発行事業者になるかどうか十分に検討してから交渉や対策を進めましょう。
インボイス制度の申請方法
管轄の税務署またはインボイス登録センターへ登録申請書を提出しない限り、インボイス制度を利用することはできません。
申請の手順は次の通りです。
1.まずは、書類を作成しましょう。
申請書に必要事項を記入します。国税庁のサイトより申請書をダウンロードできます。
2.続いて、書類を提出しましょう。
直接持っていく方法のほか、郵送やe-Taxによる電子申請で提出する方法があります。
3. 取引先に知らせる必要があります。
登録申請書が受理され、申請を受けられたら、継続的に取引を行っている取引先に知らせる必要があるので、登録番号や交付・受領方法などを連絡しておきましょう。免税事業者でも申請できますが、その前に課税事業者へ切り替える必要があり、その場合は消費税の納税義務が発生するため、利益が減少する可能性があります。どちらを選ぶべきかについては、よく検討してから申請するようにしましょう。
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インボイス発行の準備を行う
インボイス制度が始まる2023年10月1日以降、適格請求書発行事業者はインボイスを発行しなければなりません。そのため、事前にインボイスを作成するための準備をしておく必要があります。
なお、適格請求書発行事業者が、不特定かつ多数の者に対して売買やサービスの提供を行う場合は、適格簡易請求書を発行できます。適格簡易請求書はレシートのようなものですが、登録番号や税率の合計金額を記載するなど、これまでのレシートとは異なります。
適格簡易請求書を発行するためのシステムをあらかじめ準備しておかなければ、インボイス制度の開始に対応できません。また、消費税の計算を行うためには、会計システムの見直しが必要になる場合もあります。売上計上時に消費税を計上する他に、適格請求書のある支払いについては、その記載内容に基づいて処理しなければなりません。その処理に対応した会計ソフトを購入し、インボイス開始後に消費税の計算を行えるようにしておきましょう。
まとめ
今回は、インボイス制度が美容サロン・エステティシャンに与える影響について解説しました。課税事業者と免税事業者で影響が異なるため、ご自身の場合における影響について予測し、今後の経営を考えていくことが大切です。
また、新制度の導入によって税制面の負担や事務業務の負担が増えてしまうため、それらについても対処していく必要があります。特に、現在業務委託契約を結んで働いているエステティシャンの方は、今後の事業についてどのような選択を取るべきかをよく検討してみてください。